コーラ白書
TOP 四季報 データベース 缶コレ 資料館 殿堂 検索 ヘルプ

ニュージーランドの田舎町

翌日をワイポウア国立公園の巨木ツアーに費やした我々は、三日目に今回の旅の目的地、パーマストンノースへと向かった。パーマストンノースは北島の南、ウェリントンの北100kmに位置する小さな町だ。あまり観光客が行くところではないようで、ガイドブックには全く載っていない。土産屋の店長には地名を聞いた途端小馬鹿にされ、ちょっと不安な気分になる。

久々の手荷物検査のないフライト。オークランド空港を飛び立ったプロペラ機は水平飛行がほとんどないまま高度を下げ、約1時間後パーマストンノース空港へ着陸した。ボーディングゲートが3つしかない、小さなローカル空港だ。

公共交通機関がほとんどないパーマストンノースでは、移動は必然的にレンタカーとなる。ニュージーランドは日本と同じ左側通行なので、日本人でもすぐに運転ができる。と言っても実際にハンドルを握るのは国際免許書を持つ妻で、私は主にナビ係だ。

空港で合流した妻の友人の車について、パーマストンノースの街へと出る。彼らはラグビー博物館以外に見るべきもののないこの町で観光名所を色々と探してくれていたようで、丘の上の風力発電所に連れて行ってくれた。

パーマストンノースの風力発電所は、まさに壮観であった。丘陵地を抜ける強い風を受け、高速で回る無数の風車群。そしてその下で草を食む羊たち。日本ではありえないスケール感にしばし圧倒される。まさに現代のニュージーランドの姿を見た気がした。

ちなみに最近は世界的に羊の需要が減少傾向にあり、ニュージーランドでも羊の数が激減しているという。これに替わって食用牛の放牧が増えており、やがてこの場所も牛だらけになるのかもしれない。


 

ビーチでの出会い

パーマストンノース2日目。妻の友人はこの日用事があるので、二人でドライブに出かけることにした。

町の中心地を抜けると、周りは見渡す限りの牧草地。限りなくまっすぐ続く道の向こうに、美しい山々が見える。まるで北海道をドライブしているかのような爽快なドライブだ。私は助手席だけど。

このあたりは本当に観光地がないので、とりあえず海を見に行こうということになった。最も近いヒマタンギビーチ(Himatangi Beach)までは30kmほどの距離。ほとんど車のいないハイウェイ56を東に向かい、1時間弱でビーチに到着した。

ビーチに出た我々を待っていたのは、ものすごい向かい風。タスマン海を渡ってくる強烈な海風で、細かい砂がまるで地面を流れるように飛んでくる。コンタクト装備の私は目を開けていることもできず、後ろ向きで歩くことで何とか波打ち際までたどり着いた。

ヒマタンギビーチから臨むタスマン海の水平線は美しい。だけど、目を開けていられないのではどうしようもない。きっとサーフィンには理想的な場所なんだろうけど・・・。 海風に背中を押されながら、早々に後にした。

ビーチの入り口の横に、一件の食料品店があった。「Himatangi Beach Store」の看板からすると、日本の海の家的なお店だろう。ビーチに面した側にはテイクアウトのカウンターがあるが、オフシーズンの今は店舗側飲み営業している。

中は低い棚に食品やお菓子・日常品が並んでいて、小さな町の商店といった趣のお店だ。カウンターには愛想のよい白人のおばさんがにこにこと座っている。ふと冷蔵棚に目をやると、Phoenixなどのボトルに中に見たことのないコーラがあるではないか。

Foxton Deluxe Kola。なで肩の美しいボトルに入ったコーラだ。冷蔵棚の扉には、手書きだろうか、かなり年季の入ったFoxton FIZZのステッカーが貼ってある。シルクハットをかぶったキツネのキャラクターの横には、Since 1918の文字。ニュージーランドが正式に独立したのが1947年。それよりずっと昔から続くローカル飲料メーカーがこの国にはあるらしい。

レジのおばさんに聞いてみると、Foxton FIZZは近くのFOXTONという町にあるローカルの炭酸飲料メーカーだと教えてくれた。この地域では昔から親しまれているブランドで、今でも木箱に入れて配達しているという。

ラベルの住所をナビに入れてみると、ヒマタンギから約30kmの距離。おばさんとの出会いと車を借りていたことに感謝し、一路FOXTONへと向かった。

古きのソーダメーカー

車を走らせて20分、はたしてFOXTONは小さな町だった。ステートハイウェイから一本西に入ったMAIN STREETには、昔ながらの雑貨店や小さなレストランが軒を連ねる。メインストリートを見下ろす丘の上にはFOXTONの文字。20世紀初頭に亜麻糸の生産で栄えた頃の面影を残す、静かで魅力的な田舎町だった。

 

MAIN STREETを左に曲がり、ラベルに書かれたWHYTE STREETを進む。と、右手に赤い切妻屋根の建物が見えた。レンガと木とトタンで作られた年季の入った建物。側面のブロック壁には手書きで"FOXTON FIZZ FACTORY for tropic drinks"と大きく描かれている。ここに間違いない。

後で調べてみて分かったのだが、FOXTON FIZZはニュージーランドで最も古い飲料メーカーの一つだという。この地にはじめて電気の供給がされた1918年に操業を始め、第二次世界大戦ではオーストラリア軍に炭酸飲料を供給するなどニュージーランドとともに歩んできたメーカーだ。一時期はコカ・コーラなどに押されて売り上げが低迷し別工場へと移転していたが、最近FOXTONへの帰還を果たし大きなニュースになったという。

この日は残念ながら休業日で、実際に飲料が作られているところは見ることは叶わなかった。失礼してトタン塀の上から中を覗いてみると、中には積み上げられた木製のクレードルとガラスのボトル。ここで今でもFIZZが作られていることを物語っていた。

妻の友人がパーマストンノースにいなければ、私は一生FOXTONを訪れることはなかっただろう。これも何かの縁。工場の中を見れなかったのは残念だが、ニュージーランドの清涼飲料の歴史の一端に触れることができたのが大きな収穫だった。